Monday, March 22, 2010

UP IN THE AIR



 邦題は『マイレージマイライフ』。ジョージ・クルーニー主演の新作映画を観た。

 面白かった。

 僕の家は線路に近いマンションの12階にある。古いタイプのマンションの通路は外にむき出しで、エレベーターから部屋のドアまではその通路を毎日通っていくことになっている。そのことに何の疑問も持ったりはしないが、もしもむき出しの通路にアルミの柵がなかったなら、僕はその通路を歩いて帰ることが出来るのだろうか。そんなことを考えたりした。

 答えはもちろん、NOだ。ちょっと風にあおられたり、足がふらついたりしたら、僕は12階の高さから落下して一巻の終わりになる。怖くて足がすくむだろう。もう2年以上暮らしていて、柵を触った記憶もないし、もちろんふらついたことなどは1度も無い。通路は十分な広さがあるのだ。でも、それでも柵が無かったなら、僕はきっと通路をまともに歩くことも出来ない。だとすれば、僕がそこを歩いて家に帰り着くことが出来るのは、その柵に支えられているからに他ならない。

 この映画でジョージ・クルーニーが演じるのは、業績が悪化した企業が社員をリストラする時に、対象となる社員に対して、上司に代わってリストラ宣告をすることを仕事とする男である。冒頭から宣告された社員たちが狼狽する姿を次々と映していく。もちろんそれは演技なのであるが、世界的な不況を背景とした映像は何故かリアルである。ああ、日本だけじゃなくアメリカも不況で厳しいんだなと思う。10年以上務めた企業をある日突然リストラされる。しかも宣告するのは見ず知らずの男である。すぐに私物を整理してくださいといわれる。ある社員は、「仕事を失うのは家族を失うのと同じだと言われているが、実際は僕自身を失うのと同じだ」と語る。確かにそうだろう。自分の存在価値を否定されるかのようなものだ。アメリカは日本も見習うべき転職社会だと聞いていたし、ステップアップする転職をしないのはダメ社員の証なんだろうと思っていた。だが、10年以上勤めた会社をリストラされて混乱する社員たちの姿を見ていると、やはりそんなのは単なる幻想なんだと思った。

 僕の知り合いにも鬱になったりして、社会に対する適合性を失っている人が少なくない。それは決して特殊な人がなるのではなく、誰もがある日突然そうなるんだと言われる。そうだろう。僕等も毎日何の疑問も無く歩いているマンションの通路から柵を取り外されただけで、平静な気持ちでそこを歩くことが出来なくなるのだ。人生を送る上での社会の柵のようなものがあって、それがある日突然外されたり、今まであったと思い込んでいた柵が実は無かったということに気付いてしまったり。そういうことで僕等の心の平穏はあっという間に失われるのだ。

 この映画ではそれをさらに強く感じさせてくれるようなドラマが展開される。それは僕等の生活にも訪れる日が来るのかもしれない。だがそれも、柵がないから歩けないというのもまた単なる思い込みで、本当に大事なものは、柵に関係なく歩けるんだよという、思い込みにも似た気持ちの持ちようなんじゃないかとか、観ながら思ったりしたのだ。