Monday, October 15, 2012

バンドターミネーター

 僕はインディーズレーベルの仕事をもう22年もしている。バンドを育てるのが仕事といってもいい。

 ところが、僕は多くのバンドを潰している。こういうとなにか悪の権化のように聞こえるだろうが、実際はそうではない。僕の仕事の大きな部分は、バンドにワンステップ上を目指してもらうということである。そうすることで彼らは伸びる可能性に触れられるからだ。だが、この「ワンステップ上」というのがくせ者だ。今までとは違う活動に踏み込むという事であって、ハードルはこれまで以上に高くなるということである。高いハードルに挑めば、場合によってはひっかかって転ぶ。バンドもそうだ。活動の質が高くなる事でついていけなくなるメンバーが出てくる。4人編成のバンドの場合、全員が同じモチベーションで動けるのであればいいが、そういうことは稀だ。大概は2人が積極的で2人はついていくだけ。バンドの活動がワンステップあがる事で生じる負荷に、ついていくだけだった2人のメンバーがついていけなくなる危険性はある。結果として、「オレはこれ以上やっていけない」ということになってしまい、バンドが解散するという結果になってしまう。

 これはとても悲しいことだ。僕自身も仕事が途中で頓挫することになる。それまで関わってきた数ヶ月が無駄になる。精神的なダメージもそれなりにある。

 解決策はあるのか。ある。バンドにワンステップ上を目指させなければいい。でもそれでは僕の仕事にならない。なんとかワンステップ上を目指させなければならない。とはいって過激にそれを強いると、解散する確率も上がる。どこまで強いて、どこまでを見逃すかが、とても難しい匙加減だなと日々感じている。

 とはいえ、バンド内のモチベーションの違いがハッキリするということは必ずしも悪いことではない。インディーズデビューして、それなりに人気が出て、メジャーデビューするというところまで(必ずしもメジャーがいいということではない。メジャーデビューできるほどの人気と状況が備わってきたと理解してもらえれば幸いだ)達したところでモチベーションの違いが露になったら目も当てられない。だとしたらインディーズデビューするかどうかというタイミングでそれが露になる方がまだマシだ。

 やる気の乏しいメンバーがいると、活動はそのメンバーのモチベーションに合わせることになる。週に3回練習したくとも、メンバーの1人が「週1しか無理」というと、週3やるのは不可能だ。そうなると、結局やる気のあるメンバーの向上意欲が結果につながらないということにもなる。ツアーに行こうとしても「そんなの面倒」「休みが取れない」と言われたら行くのは無理だ。活動にも制限が加わる。

 つまり、やる気の差が著しいメンバーを抱えていると、やる気のあるメンバーの音楽レベルも向上しないということになるのだ。だったら、さっさと辞めてもらって新しいメンバーを入れなければウソだ。やる気の無い人から「辞めたい」と言ってきてくれるというのは、実はラッキーなことでもある。そう思えばメンバー脱退や解散はいいことだともいえるのだ。ファンから見ても、やる気のあるメンバーの才能を最大限に引き出した音楽を聴けた方がいいに決まっている。だったら、つまらないメンバーに足を取られていないで、さっさと前に進める協力者(メンバー)を探すべきだ。

 だが、4人メンバーのバンドが全員同じ目標意識とモチベーションということはありえない。そもそも違う人間の中身が同じであるわけがない。だから、多少の違いについては理解し合い、互いに欠けたところを補うような関係性を作っていくということも必要である。多少はなだめすかしながら一緒の方向を見て、バンドとして共に歩んでいける状況を作るということも、やる気のあるバンドマンには要求される。それは結局は自分のためでもある。バンドは1人では出来ないのだから。

 どこまでだったらやる気があって、どこからはやる気が無いと判定されるべきなのか、その線引きは難しい。絶対的数値で決められるものではなくて相対的な関係でしかないからである。また、やっているうちにやる気がわいてくるということもしばしばで、だから、どれだけ楽しくやっていけるのか、どれだけ近場の目標を魅力的に設定できるのかということが問われてくる。

 そういうことを、僕はバンドマンのトラブルに際していろいろと話したりもしている。だからタイトルのようなバンドターミネーター的な側面だけではないのだ。可能なのであれば今やっているメンバーで続けていけるのが一番だ。だが、それにあまりに固執して身動き取れなかったり、するべきでない妥協で長期の停滞を余儀なくされるのは愚かなことだから、きっちりと解散するという選択肢も常にカードとして持ちながら、恐れることなく現実に向き合うことで、何らかの前進を目指していきたいと切に願ったりしているのである。