Friday, June 10, 2011

応援するということ

 AKBの総選挙の話題がワイドショーをさらっている。もちろんCD買ったことは無いし、誰が1位になろうとどうでもいい。だが、それに熱狂する人が沢山いて、武道館に入り切れない程の人が会場に駆けつけているという事実には目を背けるべきではないと思う。そして、この騒動のおかげで徐々にメンバーの顔と名前が一致し始めているということもすごいなあと思う。

 一部の人たちが「投票をするために一人で何枚も買うなんて本末転倒だ。それで100万枚売れても意味が無い」と言っているが、僕はそうじゃないと思う。投票するということであれなんであれ、それが好きなアーチスト(アイドル、タレント、メンバー、この際呼び方はどうでもいいです)を応援することになるとわかっているから、彼らは買うのだ。総選挙なるもので順位が上がればテレビに沢山出るし、下がればテレビから消えてしまう。ある意味切羽詰まっているのだ。CDシングルを買うのに1500円くらい(詳しい金額は知りません)かかる。100枚買えば15万円だ。500枚買ったという人も結構いるらしい。500枚だったら75万円か。500票でどのくらい順位が変わるのだろう。1位が13万票を集めた選挙で500票というのは誤差のような気もするが、40位の人が4698票だというから、500票だったら1割以上だ。そういう熱烈なファンが10人いるだけで表彰の舞台に上がれるわけだろう。5000票で750万なのだから簡単なことではないが、その後の芸能活動を考えたらとても重要な得票である。

 で、AKBの順位はどうでもいい。僕が言いたいのは、AKBに熱を上げて同じCDを何枚も買っている人を、どうしてバカに出来るのだろうかということである。

 僕の仕事はインディーズレーベルの運営だ。言うまでもなく、ほとんど売れていない無名のミュージシャンたちと活動している。彼らは経済的にギリギリのところで頑張っていることがほとんどだ。そして売れないと最終的には解散したり音楽から離れたりすることになってしまう。もう何組のバンドの解散を見てきただろうか。彼らが解散を決め、ラストライブをやったりすると、その時がバンド史上最高の動員になったりする。来場したお客さんたちは「惜しいよね、もったいない」「もっと続けてよ」「ずっと見ていたかった」などと口々に言う。しかし、彼らのほとんどは普通のライブなどにほとんど足を運ばなかった連中だ。彼らがもっとまめに会場に来てくれれば、解散する必要など無かったかもしれないのだ。CDもそう。売れない無名バンドのCDは数百枚が売れるかというラインで戦っている。まあ数百枚くらい自力で売れないようでは未来はつかめないわけだが、その数百枚だってけっして簡単ではない。1回ライブをやって5枚売れるかどうかという状態ではなかなか先は見えてこない。

 売れないバンドは消えていって当然だ。誰からも認められず、要するに価値が無い存在なのだから。それなのに解散ということになると多くの人が惜しむ。惜しむなら、買えよと言いたい。解散して「せいせいしたよ、黙って消え去ってくれ」というのならそれもいい。だが、惜しむのなら、メンバーにやる気が残っているうちに買わなきゃダメだ。

 インディーズだけじゃない。世の中に多くのバンドがいるけれど、それなりに有名であってもセールスは結構厳しい。彼らも知らないうちに解散したりする。それはもうしょっちゅうする。無論メンバー同士の仲違いという理由もあるが、ほとんどが経済的な行き詰まりだ。なぜ行き詰まるのか。買ってもらえてないからだ。買ってもらえれば上に行ける。ライブハウスから渋谷AXへ、渋谷公会堂へ、武道館へとステップアップした活動が出来る。

 みなさんは、何かを応援したりしたことがあるだろうか。

 応援するというのは、支えるということだ。そして一緒に大きな舞台を目指すということだ。プロ野球チームのファンなら応援して日本シリーズ制覇を夢みるだろう。バンドのファンなら、ライブハウスレベルのバンドがいつの日か武道館に立つことを夢みるだろう。もちろんいい時ばかりではない。贔屓のチームが連敗すれば罵声も浴びせたくなる。ライブハウスがガラガラなら「こいつらももうダメか」と冷めてしまう。それでも優勝や成功を信じて辛い時もグッと堪える。それが本当のファンだろう。

 話が取り留めなくなってきたので結論に行こう。インディーズで活動しているミュージシャンたちは、それぞれの思いを持って活動している。なにも明日武道館にとかいっているのではない。そんな彼らを応援するとき、まずはライブに行ったり、CDを買ったりしてみてほしい。それで「いいな」と思ったら、それ以上の応援をしてみようと思ってもらえればと思う。例えばライブに友人を誘って行く。CDを5枚買って友人にプレゼントしてみる。別にボランティアなんかではない。現在のファンがそれをやってくれればたちまち売り上げ5倍だ。ミュージシャンの活動の舞台は1ステップ上がる。そうなると、普通に応援しているだけでは見ることが出来ない何かを見ることが出来るようになる。結局は自分が得をするのだ。

 誰もが普通に1枚買って応援している気になってしまう。いや、それを否定するつもりはまったくない。1枚買ってくれるだけでありがたいことは間違いない。しかし、それはやはり普通のことであって、普通のことをしているだけでは成功など遠いのである。成功をするために、その成功を支えるために、ファンだって普通とちょっと違うことをやることはあっていいのではないだろうか。そしてそれがなければ、普通のバンドとして解散に向かってしまうのである。

 そういうことを日々考えながら過ごしているから、僕はAKBのCDを何百枚も買ったというファンのことをそんなにバカに出来ないなと思うのである。むしろエラいよとさえ思う。もちろん売る側の戦略や商業主義のことは別の問題としてあるのだろうが。