Thursday, October 28, 2010

20周年ベスト解説〜「ベイベ」大正九年


(上記バナーをクリックすると本日の曲をお聴きいただけます)



20周年を記念した3枚組ベストアルバムをリリースすることになった。毎日、1曲ずつ紹介しています。1日限定で楽曲をアップしていきますので、よろしければお聴き下さい。(曲は毎日変わります。次の解説ブログがアップすると、このページの楽曲も新しいものに変わってしまいますのでご了承下さい。)

09. 「ベイベ」大正九年(1998年「最新式ひるね百科」KRCL-18)
 大正九年。キラキラレコードの歴史を語る上で絶対に外せないアーチストの筆頭。最初の出会いは彼女がまだ19歳の頃。初めて雇ったスタッフ岡野さんが偶然新宿で発見し、撮影してきたビデオには着ぐるみをまとって歌って踊っている彼女がいた。キュートなのに不思議でずっこけな、それなのにきちんとスジのあるまとまり方をしていて、これは天才だと確信した。その証拠にジャケットなども当時珍しい12ページフルカラーの印刷に踏み切った。要は彼女の才能を信じて、僕も賭けたみたいなものだった。
 当時のキャッチフレーズは「一人テクノ」。よくよく考えてみるとテクノやってるアーチストはたいてい一人であって、別に特別なことを意味しているわけじゃないのに、なんか彼女の不思議なテイストをよく現したコピーだった。
 ファーストアルバムを出したあと、3枚のマキシを連発し、25曲入りの怒濤のアルバム「九階に在る食堂」を出した頃、彼女の人気が一気に沸騰した。その直後、フジパシフィック音楽出版の人から連絡があり「是非一緒に大正九年を育てたい」と。一般には馴染みが無いかもしれないが、音楽出版会社というのは著作権を管理する仕事をする会社で、音楽業界には欠かせないものだ。このフジパシフィック音楽出版はフジテレビなどのタイアップを主に行っていて、音楽出版業界ではある意味横綱的な存在だった。こっちも突然降って湧いた話に驚きながらも、これはひとつのチャンスかもしれないと、フジパシの人と大正九年を会わせ、条件などについて話を詰めた。
 そんな時、大正九年が突然「ソニーの人から電話があった」と切りだしてきた。フジパシとの書面も出来上がって、あとはサインをするだけという段階である。ソニーの話もチャンスかもしれないが、フジパシだって力のある会社なのだ。ソニーから話が来たからといっておいそれと不義理をしていい相手ではない。だが彼女には音楽出版社とレコード会社ではリアリティが違っていた。これは厄介なことになったぞと、とても困った。
 困ったものの、実はすごく充実感のあった瞬間でもあった。なぜなら2年前に僕らが発掘して力を入れて頑張ってきた才能が、音楽出版社の横綱と、メジャーレーベルの横綱から引き合いが来て、綱引きをしているのだ。引き合われてどちらかに決めなきゃいけないのは辛いけれど、どこからも引き合われないのに較べるとはるかに贅沢で、はるかに充実した状況だなと感じたのである。結果的にはソニーからの話も社を挙げての決定ということまでには至ってなくて、フジパシと一緒に仕事をすることになった。それが良かったのか悪かったのかは判らないけれども、その後キラキラレコードからは1枚のアルバムをリリースし、フジパシの橋渡しでメジャーデビューも決まった。その時点で既に彼女の体調は良くなくて、メジャーデビューしてからも思い切った活動をすることが出来ず、大きな結果を出せずに今に至っている。
 この曲「ベイベ」は1stアルバムに収録の、地味だけど優しくて切なくて、大正九年のピュアな部分をもっとも体現した、個人的にはベストの名曲。