Tuesday, June 14, 2011

名刺

 新しい名刺が出来てきた。おいおい、引越してから1ヶ月以上経つのにそれまで名刺無かったのかっていうツッコミはやめてください。いろいろやってて、手続きとかも後手後手に回って、結局電話が通じたのが先週の初め。まあ携帯とメールでほとんどのやり取りは可能になってしまっているから、固定の電話の優先順位がどんどん後ろになってしまっていた。でも固定電話がないのに名刺作るわけにもいかない(一応ちゃんとした会社だから)ので、名刺もようやく今日届いたという始末。まあのんびりした会社だ、まったく。

 同じ印刷会社にほぼ同じデザインで発注したから、見栄えは「どこが違うの?」というくらいに代わり映えがしない。でも、やはり郵便番号が1から始まらない。電話番号は03から始まらない。僕らは京都に移ってきたんだなとあらためて実感した。京からこの名刺を配り始めることになる。折よく今夜はライブを見に行くことになっているし、そのバンドマンに渡すことになる。ライブハウスの人にも挨拶するかもしれない。やっと今日からリスタートなんだなという、ワクワクする気持ちと少しだけ戸惑う気持ちが入り交じっている。

 形になるということは、要するにそういうことなんだろうと実感した。なんでもそうだろう。バイトが正社員になる、恋人同士が結婚をする。ライブだけだったバンドマンがCDをリリースする。今までと実質的に何か変わるのかというと、きっと変わらないのだ。しかし、今までとは違う「形」を手にした時に、意識が変わる。やっていることが変わらなくても、意識が変わることで、その内容も意味合いもグンと違ってくることはよくある。そういう変化は人生に緊張とか張りとかやりがいをもたらす。

 以前、僕が大学を卒業し、ビクターレコードの営業所に配属された時のこと。セールスマンになる前に会社に慣れろということでまず企画部というセクションに配属された。そこで会社の動きを学ぶことになったのだが、そこで生まれた初めての名刺をいただいた。すると同じ企画部の女子社員たちが「いいわねえ」と言う。何の気無しにその女子社員たちに名刺を渡した。当然彼女たちの名刺も交換にもらえるものだと思っていたら、もらえなかった。別に嫌われていたわけではない。彼女たちには名刺がなかったのだ。どうせずっと内勤なので、名刺を誰かに渡す機会も必要もないという理由で。

 当時の僕は業務日誌を上司に提出することが日課だった。なのでその名刺の件を日誌に書いた。「自分は名刺をもらって嬉しかったし、俄然やる気が出た。しかし内勤の女子社員は名刺がない。これでは同じスタッフとしての誇りもやる気も生まれて来ないのではないだろうか」と。生意気だった。でも、正直な気持ちだった。

 ほどなくして、内勤の女子社員が嬉しそうな顔でやってきて、名刺を僕にくれた。僕の生意気な業務日誌がきっかけで、内勤で配る機会も必要もない社員にも名刺を作ることになったらしい。僕も正直嬉しかった。

 名刺は、ある意味社会人としての証みたいなものである。飲み会の席で名刺交換をする。実質的には紙の無駄なのかもしれない。だが、逆にそこで交換する自分の名刺がなかったら、少しバツの悪い思いをしながら名刺を持っていない理由を説明しなければいけない。それで愛社精神が沸くものか。まあ愛社精神まで起こらなくてもいい。しかし普通に仕事をしていて「自分はここに必要な存在なのか」という疑問が起きるかもしれない。そういった諸々のことを考えても、名刺くらいは全社員にあった方が、いいんじゃないかって普通に思ったのである。

 話が逸れたな。ともかくも、京都の住所が入った名刺がようやく出来たのだ。ここが新たなスタート地点だ。頑張っていきたい。