Saturday, July 04, 2009

007



 DVDで007を観る。ボンド役がダニエル・クレイグに替わってからの『カジノロワイヤル』と『慰めの報酬』の2本。新作の『慰め』を観たくてTSUTAYAに行ったら借りられなくて、仕方なく前作の『カジノ』を借りたのだった。

 いやあ、面白かった。すぐにTSUTAYAに行き、『慰め』を借りて観た。これも面白かった。

 2本通して観たのだが、2本続けて観ないと話が通じないような作りになっている。いや、『慰め』からいきなり観ても十分に面白い。だが2作を通じて登場する悪(?)の組織や、ボンドに味方する脇役がいるので、やはり通した方がいいと思う。だが映画館で新作の時に観たのであれば、どれくらい前作の内容を覚えているのだろうか。僕にはまったく自信がない。あれ、このオッサン何言ってるんだっけ? とか、この女の人は誰なんだろうとか、せいぜいそのくらいの記憶しかないと思う。それだと本当に楽しめるのだろうかとかすごく疑問だ。

 最近送られてくるデモテープ(いや、すでにテープで送られることは稀だが)を聴いていて思うのは、サウンドも歌もかなりレベルが高いバンドは沢山いるということ。しかし、その実力を十分に活かしきれていないケースがほとんどである。どうしてかというと、彼らはリスナーのことを本当に考えてはいないからである。主に歌詞などで言えることだが、とても個人的な体験を、その体験の具体性にはほとんど触れずにその体験に即して感じた自分の感情を抽象的な言葉で綴ったようなものが多いのだ。それではなかなか情景を思い浮かべることが出来ないし、だから感情移入も当然のように出来なかったりする。作り手の頭の中にはその言葉をひねり出した根拠となっている情景が頭の中にあるから、そういう抽象的な歌詞でも感情たっぷりに歌うことが出来るけれども、聴いている方としてはチンプンカンプンだ。

 しかしそれでも大ファンになってCDの歌詞カードを見ながら聴いているような人なら理解もしてくれるかもしれない。そういう人だけを相手にしてもビジネスになるのならいいけれど、キラキラレコードにデモを送ってくるバンドはまだまだこれからのバンドであり、見ず知らずの人たちを新たにファンにしていかなければいけない立場のはず。だとしたら、歌詞カードを見ながら聴くのではなく、むしろ1曲通して聴いてくれることさえ期待出来ない人を相手に魅力を伝えていかなければならない。そうすると、サビだけとか、下手するとAメロだけで引きつけるような歌を意図的に用意すべきなのである。それがエンターテインメントというものなのだ。

 007を観て、さすがはエンターテインメントの極致という気がした。それは登場人物について前作からのつながりが判らずに『慰め』だけを観ても十二分に楽しめるからである。アクションも恋愛感情も友情も全部入っているし、当然スパイものだから犯人探しや裏切りといった要素も、ウイットのある会話もふんだんに盛り込まれている。それでいて前作『カジノ』と続けて観ればさらにそのつながりが判って、深くなっていく。『カジノ』のエンディングで『カジノ』が完結し、ボンドがボンドになったんだなと納得させてくれたのだが、それが『慰め』へのプロローグになっていたなんてビックリだし、『慰め』のエンディングでも、『カジノ』で出てきた小道具が重要な役割を果たす形で登場する。連続して観る人にはまた発見がある。この2段構えでの楽しみを提供しているところが、エンターテインメントなのだ。それに対して売れないバンド(エンターテインメント全般とも言える)は、深みもないし、単純に判りやすいという正確も失って、結局それは独り善がりというものになってしまっているのである。それが芸術だと言い訳のような反論をする人も沢山いるかもしれない。だが人に好きになってもらうということがエンターテインメントビジネスの必要条件である以上、そこを外すようではまったくダメだし、それを押さえつつも芸術的深みを備えることは可能であることを考えれば、まずは基本的なエンターテインメント性を実現するように努力してもらいたいと思うのである。

 話が逸れたな。007役のダニエル・クレイグは無感情な風情で、サスペンス映画の主役としてはとてもイケてると思う。人それぞれだろうが、僕にとっては歴代007俳優の中でも最高だ。『慰め』で炎に包まれるアクションシーンの後、顔に無数の傷を作って、それがクリンゴン(スタートレックに登場するエイリアン)にそっくりに見えて笑えた。ボンドガールも一時期はそれなりに有名な女優さんが登場したりしていたが、この2作についていえばほぼ無名な女優さんが起用されていて、それが見事にハマっていて、いい。有名な女優の集客力に期待するのではなく、ここからスター女優を生み出すんだという気概が復活してきたようで、ちょっと嬉しい気持ちになった。