Tuesday, December 21, 2010

音楽と映画

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 早稲田松竹で『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』を観た。年の瀬も押し迫るこの時期に2本立て4時間以上を映画館で過ごしていいのか、オレ。でも先生ではないので、師走にも走る必要なし。それも困ったものだが。かつてビクターに勤めていた時、先輩に「映画なんて2時間しかかからないんだし、そのくらいチェックできないようで文化の最先端が判るわけがない」などと言われたことがある。人間的には嫌いな先輩だったが、その言葉だけは反論できない教訓としてずっと心に刺さっている。かくして、映画を観に行くことに一点の後ろめたさも持ってはいけないと、勝手ながら信じ込んでいるのである。

 『THIS IS IT』は言わずと知れたMJの遺作。その言い方はちょっとヘンだな。どの辺がヘンかは今さら説明することもないだろう。昨年の今頃だったろうか、限定公開の最初の週に観に行き、公開延長してまた観に行き、DVDも購入した。マイケルのライブはBADツアーの時に4度生で観たこともあって、個人的にマイケルは特別なアーチストである。一方でストーンズ。ストーンズの東京ドーム初公演もビクターにいた頃だから、もう20年以上前のことかもしれない。それも2度観に行った。でもマイケルに比べるとストーンズはそれほどフェイバリットアーチストではない。ないが、今も現役として最前線で活躍しているのはスゴいと思う。13枚のオリジナルアルバムで解散したビートルズは、もはやその活動がないことで伝説となる。音楽の素晴らしさとは別に、活動の終焉はもう見られないという思いも加わっていくが故に伝説になりやすいのである。マイケルにしても、生きていたらTHIS IS ITがあれほど注目されただろうか。もう見ることかなわないという心理がリスナーの判断を、ある意味誤らせるのだ。

 そういう意味で、やはりストーンズは別格であると言えるだろう。ある意味前例のない境地である。その映画がTHIS IS ITと二本立てだったので、忙しくとも是非見たいと思っていたのである。

 結論として、面白さもそれなりだった。この映画はマーチンスコセッシが作ったという。冒頭このライブのセットをどうしようというところから始まるのだが、プランについてのストーンズの返事が返ってこないことに苛立つスコセッシのシーンから始まる。ツアー中のストーンズは楽屋でビリヤードをしたりしていて、返事など簡単に出来るだろうにという様子なのだが、それでも返事はこない。スコセッシもセットのことはもうあきらめ気味になり、「せめてセットリスト(演奏曲目)だけでももらえないだろうか、曲順までは要らないから」と言い出す。しかし当日になってもセットリストはあがってこない。リハは進むがセットリストは出てこない。そしてセットリストが届けられるのは、なんとライブの幕が上がって、キースがJumpin' Jack Flashのイントロを鳴らし始めてからなのだ。

 ストーンズはおそらくマーチンスコセッシのことを他のライブ番組制作のテレビクルーと同程度にしか思ってないのではないだろうか。スコセッシは映画界では大物だし、ハリウッドスターたちも撮影では皆言うことを聞いてくれる立場だから、その自分が撮るんだからストーンズが言うことを聞くのも当たり前だと思っていたに違いない。だがまったくそんなことにはならず、いつものようにライブをこなし、それをただ撮らせてもらうだけである。

 音楽の世界はある意味狂気だ。そして狂気でなければ面白い音楽は生まれない。それはちょっと言い過ぎかもしれないが、普通ではないところから生まれるものの面白さというのは確かにある。その面白さをリスナーは喜ぶのだが、その分だけ間近にいるスタッフは振り回されて消耗することは少なくない。そのことを知ってて、理解した上で音楽の狂気に近付くのならいいが、知らずに近寄って困り果てるのはよくあることだと思う。スコセッシはまさにそんな感じで、そのうろたえぶりが僕にはとても面白く、これはコメディ映画がはじまるのかとさえ思ったのである。

 ライブが始まると、映像は過去のインタビューシーンとライブの演奏シーンが交互に映される構成になった。で、思ったのはマーチンスコセッシは音楽を知らないなということ。どの曲をやるかを事前に知りたいのはカメラがどこを狙うべきかを決めるためだったようで、セットリストがライブ直前にしか手に入らなかったので多少可哀想な部分もある。しかし、じゃあセットリストを事前に入手していたらいい映像が撮れたのかというと、多分そんなことはなかっただろう。基本的に狙うのはミックの表情で、演奏のことは二の次のようだ。キースのソロの時にロンウッドの姿を延々写しているところが沢山あったし、キースを写してもギターを弾く手元はほとんど映らず、バストアップばかりである。観ていてとてもイライラした。コーラス隊は何度もアップになっているのに、チャーリーワッツはいないかのように無視されている。せっかくの素材と舞台を手にしているのに、もったいないことである。