Sunday, June 09, 2013

才能との出会い

 先日、恵文社一乗寺店に行った。家原恵太作品展を見るために。家原恵太とは、僕が注目しているアーチストである。
 
 それはほぼ一年半ほど前だっただろうか、同じ恵文社一乗寺店で彼の展覧会を偶然見た。その時のあるひとつの作品がとても素晴らしく、ファンになった。その時は会期も終わりに近く、手頃な値段の作品はほぼ売れていたので何も買えず、ポストカードを5枚ほど購入した。

 その後彼のTwitterとfacebookをフォロー。イイねなどしてるうちになんとなく親交がうまれてきた。面識の無いアーチストと直接つながることができる。ここが現代の面白いところだ。相変わらず面識は無いものの。

 そして今回の展覧会。僕は初日の午前に見に行って、中くらいの作品をひとつ購入した。

 僕は普段音楽の仕事をしてて、まったく無名のバンドを発掘したりしている。そういう意味では才能との出会いは日常茶飯事なのだが、音楽以外ではなかなかそういう機会はない。だから家原恵太氏との出会いはとても面白かったし、興味深いものだった。今回買った作品が、彼が将来大作家になることで価値が上がるかもしれない。そうなれば最高だが、そうならなかったとしても気に入った作品は僕の手元に残る。それで十分だ。一度でも感動をさせてくれた若手作家に対するお礼の意味というか、応援の意味でも、僕は作品を購入したいと思ったのだった。
 
 音楽の仕事をしていて、今は音楽にお金を使わないという方向に向かっていると感じている。YouTubeで聴けばいい。聴き放題サービスもどんどん始まる。何でも無料だ。だがそれではアーチストは育たない。もちろん何にでも払えというのではない。だが良いものにお金を払うということはあるべきだと思うのだ。そうしないと、自分の感動さえ無料ということになる。価値が無かったものということになる。

 そして昨日土曜日、僕は再び恵文社一乗寺店に行った。在廊している家原氏と初めて会う為に。初めてなのだが、初めての気がしない。不思議だな、SNSの世界は。

 そこでいろいろな話をした。絵の値段についても質問した。僕自身以前カフェをやっていた時に若手アーチストの展覧会をカフェ内でやったことがあって、その時に自分の作品に値段を付けることに苦悩している彼らの姿を見て、値段を付けるというのは難しいことだなあと感じたからだ。家原氏は「そこは自分自身の感覚でつけるわけで、どうしても安くしたいという気持ちもあるんだけれど、それではダメだと思う」と言っていた。知人から「あまり安くするとそのことでお客さんは価値を感じなくなる」といわれたということも言っていた。なるほどなと思った。

 僕もミュージシャンと接する時に、どうしてもCDの値段を安くしたがるのを諌めることがある。それは安くしすぎるとビジネスにならないという側面も大きいのだが、同時に安くするから売れるというのが幻想に過ぎないということも知っているからだ。ライブハウスで300円のCD-Rと2000円のCDを売っていると、どういうわけか2000円のCDの方が売れる。人は音楽そのもののデータよりも、きちんとしたものに価値を見いだすのだろう。それはキチンとしたものだからこそ、そのアーチストの意気込みも伝わるということなのだろう。もちろんそれだけではないが、そういう側面もある。だからある程度の値段はあって然るべきだし、それを受けるユーザーの側も、感動したのであれば、そして応援したいという気持ちがあるのなら、それなりの対価を払う気持ちを持つべきだろうと思う。そういう気持ちで、僕は彼の作品をひとつ購入してみた。金欠の折り、一番高い作品を買う余裕はなかったのだけれども。

 恵文社一乗寺店での彼の展覧会は明日月曜日まで。週末の今日など、お近くの方は出かけてみてはいかがだろうか。


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恵文社一乗寺店 http://www.keibunsha-books.com/html/page13.html