Sunday, January 25, 2009

白鵬コール


 いやあ、復活したね、朝青龍。いろいろなプレッシャーがあって、実際に左腕も痛かっただろうに、それでも気力で頑張った結果が出て、良かったなあと思う。

 でも、優勝したことよりも「復活」したなあと思ったのは、結びの一番で沸き起こった白鵬コールだった。これまでの朝青龍はあくまでヒールという立場であり、それはあまりに強いから「負けてしまえ」という一種の期待が彼をヒールにしたのだ。もちろん自分勝手な性格とかが喧伝されて、それで「あまり好きじゃない」と思っている人も多いだろう。しかしそれも彼が強いから嫌っている人たちが声高にマイナス要素を取り上げているからであって、もし朝青龍が弱ければ、敢えて彼の性格のマイナス面を非難することそのものに意味がないのである。

 同じように強すぎた横綱で憎まれたのが北の湖。30年くらい前なのか、当時は本当に強くて、負けたらみんなが喜んだものだ。それは心の底から北の湖が嫌いだったのではなくて、最初から決まっているような結果になるのが面白くなかっただけで、波乱を期待したかっただけだったのだろう。勝ち続ける、他を圧倒するというのはそういうことなのだ。だから彼は「勝ったら拍手をもらうようになった。これは潮時なのだな」と思って、引退を決意したという。つまり、真に強いものは、応援されるようになったらおしまいなのである。

 朝青龍も強すぎる横綱だ。だから嫌われる。しかし今場所は事前の報道で準備不足が指摘されていた。勝てないのではないかと。そして3場所連続で休場しているという事情から、今場所もし休場することがあれば即引退だと囁かれていた。というよりガンガン言われていた。だから序盤は朝青龍の勝利に歓声が沸いた。それは北の湖が引退を決意したのと同じような状況だなと感じていた。だからといって朝青龍負けろとは思ってはいない。やはり勝ってほしい。だが、その「勝ってほしい」という思いそれ自身が本来の朝青龍の状況ではないというジレンマに満ちていた。

 だが予想に反する活躍。連勝に継ぐ連勝に、今度は白鵬が星を追う状況に。今場所は朝青龍に注目が集まっているとはいえ、白鵬を応援する人たちもいるのだ。というか数でいったら白鵬ファンの方が多いはず。だから、千秋楽の結びの一番では白鵬コールが起きたのだろう。それはなんか朝青龍がアウェイでの戦いに挑んでいるようだった。うわっ、人って現金だなあと思ったが、でもそのアンチ朝青龍の声がとても心地よかった。今場所は朝青龍に優勝してほしい。でもそれはいたわられての優勝ではなく、白鵬コールの中での憎まれながらの優勝であるべきだ。それが実現して、ああ、復活したんだなあと感じたのである。

 ここで優勝させてはいけない。白鵬にはそういう思いもあっただろう。だが、勝てないのが現実だ。そういう壁のような存在があって、乗り越えようという気持ちも高まる。それが精進というものなのだろう。これからの大相撲が面白くなるような気がしてきた。朝青龍が慢心さえしなければであるが。




 表彰式で総理大臣杯を授与しに麻生太郎総理が土俵に登場。なんか一言コメントを言ったりして、なんか絵にならなかった。貴乃花に賜杯を渡して「感動したっ」と叫んだ小泉純一郎にあやかりたかったのだろうが、なぜこんなに絵にならなかったのだろうか。よくわからない。これが没落寸前の勢いのなさというものなのだろうか。

 もしも麻生さんにユーモアと度胸があったら、こう言えば良かったんじゃないかと勝手に思う。
「平成21年1月25日、総理大臣、あさしおたろう! あ、読み間違えた、あそうたろうだね、この漢字。」