Sunday, January 25, 2009

バッテリー



 金曜。仕事で新宿まで車で行こうとしたところ、駐車場から出る事が出来なかった。バッテリーが上がっていたのだ。

 最初にバッテリー上がりを体験したのはもう十数年前のこと。当時乗っていた軽自動車がうんともすんともいわなくなった時は目の前が真っ暗になった。あの時どうやってその凹みから立ち直ったのかはもう覚えていないが、バッテリーは消耗品だということをその時に学んだ。カー用品店やガソリンスタンドでバッテリーを買って取り替えればまた動くのだ。ノートパソコンとか携帯電話、ビデオカメラなんかと基本的には同じことである。
 
 車はどういう部品で構成されているのか。それが普通のユーザーにはわかりにくい。大きなブラックボックスだ。キーを挿して(最近はボタンを押すという種類もあるらしい)回せば動くし、ブレーキとハンドルさえ間違えなければ、まあ動く。程度の差こそあれ、すべての機械について内部構造を知り尽くすのは一般人には不可能なことである。だが、それにしても普通のレベルで知らなすぎだと思う。乾電池で動くラジオが鳴らなくなったとき、目の前が真っ暗になるとしたら滑稽に過ぎるだろう。
 
 その後車にトラブル(というほどでもないものばかりだが)が起きるとディーラーやカー用品店に持っていき、修理しているのを側で見るようにしている。バッテリーも何度も換えた。取り替え方はだいたいわかっているつもりだ。96年に今の車に乗り換えてからバッテリーは5個目だが、最初にダメになったときには驚いた。工賃も含めて4万円くらいした。軽自動車のバッテリーは数千円だったのだから、一体何が起きたのかと信じられなかった。本当に目の前が真っ暗になった。大きい車に乗り換えたのがいけなかったのだろうが、だからといって車を換えることは今さら出来ず、仕方なくその金額を払うことに。
 
 次にバッテリーが上がったのは夏の駐車場で。スタートさせようとしたら動かなかった。近くのガソリンスタンドに行くと、駐車場まで持ってきて、取り付けてくれるということに。何故そんなに親切なのか。それは、形が適したバッテリーがそのお店の在庫に無かったからである。どういうことかというと、電圧的に問題のない国産社用のバッテリーを取り付けようというのだ。バッテリーの形が違うから、取り付ける位置の空間によっては入らないことがある。そんなものをパーツとして売ったら、「取り付けられないよ」ということで返品になるのがオチだ。なので、在庫を売らんとしたお店が、店員を派遣してまで文句のでない取付を目指したのだった。結局、うまく(?)付いた。国産社用のバッテリーだったから安かった。それで数年は何の問題もなかった。
 
 次に交換したのは、再び駐車場で。しかし引越の後で駐車場はタワーパーキングだ。他の車とケーブルで接続するということも出来ず、仕方なくオートバックスで買ってきて取り付けることに。前のバッテリーが国産社用の安いヤツで、それでも問題なかったとはいえ、自分で付ける自信はなく、ダメだったときに返品できないと困るので、結局BOSCHのバッテリーを購入。やはり3万円以上して凹む。そもそも車が動かなくて予定が狂ってしまうだけで凹むのに、対処にお金がドーンと出てしまう、しかも選択の余地がないというのがダブルで凹むことなのだ。
 
 で、金曜日。駐車場から戻って、対処を考える。まずはネットだ。調べてみるといろいろある。激安の文字が並ぶ。通販だったらバッテリーはほぼ半額なのだ。適合するバッテリーも約15000円。注文したら即日発送してくれるという。時刻は午後4時。慌てて電話をしてみる。「まだ即日発送は間に合いますか?」すると即日発送の締切は3時であって、既に受付は終了しているとのこと。しかし、即日発送してもらえなければ意味がないのだ。なぜなら、本来は金曜日中に手に入れておきたいものがあって、それを買うために車が必要だったのだ。その日の入手はあきらめるとしても、土曜日の昼過ぎにはそれを手に入れて、作業を開始しなければならない。金曜日の即日発送をしてもらい、土曜の午前中にはバッテリーの取付をしなければならない事情があったのだ。たとえ料金が高くなったとしても、即日発送をしてくれる業者に発注しなければならない。
 
 それで無理を承知でお願いしてみた。「何ともならないですか? 明日の午前中に必要なので、即日発送出来ないとしたらおたくから買うことは出来なくなってしまうんですけれど。」ある意味脅迫だ。だがそれで相手に不利益を及ぼすようなものではない。ルールをちょっとだけ超えて、商品を発送してもらうだけのこと。本当に出来ないのならば頑として断わるだろうし、出来るならばやってくれるに違いない。すると「5分くらいで注文できますか?」電話ではなく、注文はあくまでネットからとのこと。それはクレジット決済と連動しているからなのだろう。一も二もなく「出来ます」と答え、電話を切り、ネットへ。初めてのサイトでの注文&決済は慎重にもなるし結構手間もかかる。「同意しますか」とかいう文面を読まなければいけないし、個人データをいちいち打ち込まなければならない。大変といえば大変だが、遅れたらもっと大変だ。結局12分くらいかかってしまったのだが、画面上では無事に手続き完了。すかさず電話して、「ちょっと遅れましたが、大丈夫ですよねっ!」比較的明るい口調で「ありがとうございます。決済も完了しておりますので本日発送しておきます。」良かった。これで明日の仕事の展望が開けた。本来は今日(金曜日)には始められていた仕事ではあるけれど。
 
 翌土曜日、出社すると既にヤマトの不在票が入っていた。10分前に入れられたらしい。それでドライバーさん直通の番号に電話をかけ、会社から徒歩8分のところに行ってしまっていた車まで取りに行く。ちょっと迷惑そうだがなんとか対応してくれた。いつも馴染みのドライバーさんで良かった。その足で駐車場に行き、取り付け作業。何とか取り付けてキーをまわす。動く。良かった。しかしなんかパワーが弱いのか、アイドリング状態で維持できず、アクセルを軽く押しておかないとエンジンが止まる状況に。しばらくその状態を続けないといけないのだけれど、タワーパーキングでそれをやり続けるのはちょっと迷惑をかけてしまうだろうなあ。しかしそんなことで遠慮しているわけにもいかない。約5分程度車庫内でアクセルをかけ続ける。やがてパワーが戻るような感覚になり、アイドリングも維持できるようになり、出庫し、出かけることができた。
 
 何事も経験だ。経験によってスキルが上がる。別に車屋さんになるつもりなど更々ないけれど、知っていて損はない。何も知らないですべてディーラー任せにしていたら、毎回4万円以上かかったわけだし、そもそも土曜日の昼過ぎに車を動かすことはまず無理だっただろう。ネット通販で安く買えるというのも、今回得た経験のひとつだ。そういう経済の流れがいいのかどうかはわからないけれど、自分の懐を自衛するためには、そういうものを利用することには意味があることだし、時代の流れというのはそういうものだ。逆らっても仕方がない。
 
 バッテリーを交換していて思ったのは、自作パソコンのことだ。パソコンは普通の人にはまったくのブラックボックスで、CD-Rを入れたりダウンロードしてソフトをインストールすれば機能が増える。マウスとキーボードでいろいろと操作をするということはわかっているものの、では中身がどうなっているのかについては知らない人が殆どだろう。だが、自作パソコンにトライした人だったら、構成パーツを別々に買ってきて組み合わせたらパソコンが出来るということを知っているし、それで同じ機能のパソコンを安く手に入れることもできるのだ。まあパソコンメーカーも同じことをやっているだけだし、安くなるという以上に、自分で作っているという行為そのものに感動とか興奮を覚えるものなのだ。バッテリー交換も初めてではなかったけれども、やはり自分で車をメンテナンスできるという事実が、なんか感動したりするのだった。
 
 ネットにあった激安バッテリーの中には、再生バッテリーというものもあった。新品の99%くらいのクオリティがあるとうたっていて、値段も5000円を切っていた。それはそれで魅力があるし、耐用年数に多少の問題があっても、新品が3年もつとすれば、それが1年以上もてばいいということになる。そもそも96年式の車にあとどのくらい乗るのかという問題もあって、耐用年数が長いことも逆に問題だったりする。だが翌日には絶対に動かないと困るという事情もあり、今回は再生バッテリーにトライするのは見送った。次回は是非トライしたいと心底思うのだけれども。