Friday, March 13, 2009

バッシング再び

 いやあ、手の込んだことをやるものだと改めて感心。驚くというか、あきれる。
 
 世論操作ってどこまでのことを意味するのか、その判断は難しい。操作なんてそもそもできるのかという疑問も当然ある。操作をする主体が誰なのかが判ってしまうようではレベルが低い訳で、誰がやっているのか判らない操作だからこそリアルな感じが醸し出され、なるほどそうなのかという気分が広がってくる。そしてそれがウソであってはならない。ウソは言わないが情報の出し方が歪なものは、それは真実とはいえない。真実ではない情報とウソは紙一重なのだが、突き詰めてみるとウソではないから、あからさまな批判も受けにくい。そういう情報を反乱させることによって真実を追究したいという一般市民の判断基準は歪むし、そういう歪みを意図しようとしまいと、結果的にそういう歪みを生む報道は、結果論として世論操作になるのだと思うのである。
 
 そう感じたのは、ネット上にあった、とあるニュース。日経系のそのニュースにあったのは、国会議員たちにアンケートをとって、その結果を基に各議員がどういうポジションにあるのかを分類して、その結果がどうだったのかということを論拠として今の政治状況を語るというもの。しかもそれをどう判断したかという基準も「民意との乖離」というものになっている。
 
 これによると、アンケートを基に政策が似ている政治家を4つのグループに分け、「公共投資型なのか官の無駄排除なのか」という縦軸と「セーフティーネット重視型なのか民間競争型なのか」という横軸によるマッピング上に振り分けて、それが民意とどう関連するのかということで論評している。だが、このやり方には大きな問題があると言わざるを得ない。
 
 まず、問題点その1。この縦軸横軸の決め方はどうなのかということ。公共投資と官の無駄排除ということは対極にある課題ではない。公共投資が全て悪いのではなく、必要なものもちゃんとある。そして官の無駄というのは、無駄遣いをする人がいるとか、天下りなどへの批判が多いということである。この縦軸の関係を成立させるためには、まず「公共工事は無駄である」ということが肯定されなければならないのだが、そんなことは到底肯定されるはずがない。同じく横軸も同様で、セーフティネットを広げるということは民間の競争を激化させるということとはまったく別の話である。民間はいずれにしても競争をするのだ。その競争でこぼれる人がどうしても出てくるから、それを国でどう救うのかということがどうルール作りされるのかということが問われるのであり、そのルール作りのために、例えば雇用保険制度などもあるわけだし、生活保護などもあるわけだ。これらの制度は民間企業や個人への一定のルールに基づいた負担を求めることによって成立しているのである。民間企業がお互い競争をする場合も、よほどの違法企業でなければ雇用保険を支払っているだろう。たくさんの社員を雇えばその支払額も増えるし、それを減らしたかったらスタッフ数を減らすしかなく、それでは多くの仕事をこなすことは出来なくなる。それはどの会社に対しても同じであって、競争を止めているということでは全くない。それがイヤだから非正規雇用を増やしているじゃないかという反論があるかもしれないが、それは非正規を認める国の制度設計の問題であり、民間の競争とは全く関係のない話だ。こういう基準で各議員の政策比較をするということにセンスのなさ、もしくは悪意を感じる。
 
 次に問題点2。質問が17個のアンケートですべてを分類しているが、この設問がかなり恣意的な印象がある。「○○○○は極力小さい方が良いと思いますか」「○○○○は必ずしも重要ではないと思いますか」「○○○○のペースを減速すべきだと思いますか」「○○○○を見直すべきだと思いますか」「○○○○は自然な流れだと思いますか」といった設問が並ぶ。べき、自然、重要ではないといった言葉使いにはすでに設問者の意思や判断が含まれており、それにNOを言うのは抵抗感を生むのだということを設問者は理解すべきだし、理解した上でのそういう質問ならば、やはり回答誘導への意図が含まれていると言わざるを得ない。
 
 問題点3。このアンケートをしている対象者がこのサイトの読者登録をしている人であり、かなり特殊な位置づけにある人たちの集団であるということを前提にしている。しかも対象者の性別比は91%。あきらかに偏った対象である。しかし、その読者集団の意見というものを「民意」という形でとらえている。これが許されるなら、「幼稚園児500人に聞いたアンケート」「年収5000万円以上の人たち500人に聞いたアンケート」「預金額50万円以下の母子家庭の母親500人に聞いたアンケート」「80歳以上の高齢者500人に聞いたアンケート」「六本木の外人専用高級クラブのお客さん500人に聞いたアンケート」というものも可能になるし、それをもって「民意」ということも許されるということになる。そんな民意がいかに無意味かは明らかだし、まったく違った「民意」を導くことも可能になってくる。意図した形の「民意」を導くのは簡単だということになる。なぜなら、そういう意見を持っていそうな偏った集団限定でアンケートをとればいいのだから。
 
 問題点4。このアンケートで何を結論づけようとしているのかは、導かれた記事タイトルに如実に現れている。「代表秘書の逮捕より深刻、民主党が抱えるある問題」というのがそのタイトルなのだが、このアンケートの結果として「民主党議員の目指す政策は民意とかけ離れてしまっている」という結論に導こうとしているのだ。だが、ちょっと待てよ。そもそもこのアンケートの正当性に重大な疑義がある。しかもそういう意図されたアンケートでありながら、出てきた分類結果をまとめたときに4つのグループにはそれぞれ自民党議員も民主党議員も公明党や社民党、共産党なども含まれるのである。この17の設問からどうしてこの分類になるのかの根拠も不明であるし、それによって各議員がそういうグループに属すことになって、マッピングの同じ位置におかれるようになるのは明らかに不自然だ。そして特定のある位置に置かれるグループは「民意」の位置とは離れていて、マッピンググラフのなかに亀裂のイラストが描き込まれていて、その外に配置されている。そのグループに民主党議員が多いのだということにされて、そこから「民主党の政策には問題が多い」という結論に至っているのだ。結果、「代表秘書の逮捕より深刻、民主党が抱えるある問題」というタイトルになり、そのタイトルだけが踊る。メルマガにはそのタイトルだけがどーんと載ることになる。メルマガを見てその先にクリックする人の数は多くない。だとすれば、毎日のメールチェックでメールのタイトルに「代表秘書の逮捕より深刻、民主党が抱えるある問題」という言葉を見て、「あー、民主党はダメなんだな」という印象が残される。要するに、そういうメールを送りつける根拠として「ウソではない」アンケートを実施して、恣意的な世論操作が行われる。こういうのを問題だと言わなくて、何が一体問題なのだろうかと思うのだ。
 
 
 こういうアンケートは氷山の一角だ。先にも述べたように今回の秘書逮捕なども、検察の正義は最終的にその逮捕容疑に於ける判決での有罪を目指すものであるべきだが、それ以上の重大な世論操作の主体となっているということについては操作をした側は誰も何も語ろうとしない。彼らが貝となって口をつぐみ、黙々と捜査を続けているのであればそれもありだろうが、民主党に不利益に働く情報は次々とリークする。民主党議員をあたかも犯罪者でもあるかのように報道させる、そのネタを提供する。いや、彼らは彼らの仕事をやっているだけだ、正義に向かって進むだけだ、政権の検察への介入なんて有り得ない。いろいろとその正当性、手続きの正しさを主張する。だが、そういうところに現れる正当性ってなんなのという疑問は残る。先のアンケートも、「恣意性はない」というだろうし、確かにウソはないのだ。だが、ウソはなくても真実ではない。偏った情報を歪んだ形で、しかも一部の見出しだけがメルマガタイトルとして流布される、その歪さを正当化するための「アンケート」であるとしたら、それは正しい使われ方ではないだろうという。気がする。それはまるで、不当請求をする違法エロサイトが、ページの下の下に小さく課金についての条項をちらりと載せていて、だから高額請求をしたっていいんだという根拠としているのと同じにおいがするのだ。
 
 バランスをとるために自民党議員の方にも事情聴取するとかしないとか言っていたけれども、それは一体どうなったんだ? それをやる前に公設第一秘書を逮捕し、かつての秘書だったということで現在国会議員にも事情聴取をするということを、打診している段階で報道させるということをやっている。だとしたら、二階議員のどの秘書に事情聴取をするのかということも実名入りでリークしろよと、言いたいが、それは誰にもどこにも伝わらない。
 
 なぜこんなことを言うのかというと、かつて小沢一郎が下野した後の衆議院選挙で、自民党系の候補者のポスターに踊った言葉が「安定か、混乱か」だったことを思い出すからである。当時の自民党は、小沢一郎たちが社会党や民社党、社民連なんかと組んで政権を取ろうとしていることに不満を持ち、脅威を感じ、それで「社会党なんかに責任ある政治が出来ると思っているのか? 彼らに国防を任せられるのか?」などと、当時の総理総裁たる宮沢首相も口角泡を飛ばして叫んでいた。だが、しばらくして自民党の行ったことはというと、その社会党党首を総理大臣に据えるという選択だった。そんなことをするとは誰も思わなかったけれども、彼らはした。安定か混乱かというスローガンは見事に消え、彼らに言わせれば混乱をもたらす元凶である社会党に国をゆだねた。現在も小泉首相のもとに構造改革と郵政民営化を主張して選挙に勝ちながらも、その議席数を抱えた麻生政権のお題目は、構造改革にストップと、天下り容認、郵政民営化の見直しである。全く逆のことをやっているではないかと思うし、それこそが民意と逆のことをしているのは自民党だということになるのではないだろうか。
 
 すなわち、民意とかけ離れているのは麻生政権そのものだし、だから選挙をという要求に対して、景気優先を掲げることによって選挙を避け、民意反映を避けていることを望んでいるのも自民党幹部ということになる。そういった点を全て無視して、民意とかけ離れた民主党という主張を流すことになんの正義があろうかと思う。
 
 今回の来るべき選挙に向けて、自民党は再び同じバッシング活動をやってくるだろう。というよりそれは既に始まっているというべきで、しかも以前よりも巧妙で、だからこそ悪質なバッシングが展開されているというのが僕の見方だ。いかにも不当で、いかにも不正義で、彼らの自己保身目的に基づいた、「民主党は自己保身のためだけにうわべで耳障りのいいことばかり言う」という非難が今後喧しくなってくるだろう。チャレンジャーにとっては辛く不満の残る戦いであると言わざるを得ない。しかしそういう逆風を乗り越えるのはチャレンジャーとしてアウェイで戦っている以上仕方のないことだし、そういう不公正な状況での戦いにも勝つくらいの圧倒的な力を見せなければ、やはりその資格すらないと言われても仕方のないということなのだろうと思う。頑張って欲しいと思うが、同時に僕ら一般市民も出来るだけ冷静な目で物事を見ていかなければいけないのだと自戒したいと思うのだ。