Tuesday, April 07, 2009

聡明さ

 ミュージシャンとのミーティングは続く。
 
 キラキラレコードはレーベルだ。基本的にはCDを製造して流通させる。それだけである。だが、それだったら単なるプレス会社とか、有象無象のレーベルもどきと変わらない。19年続いているには理由がある。ミュージシャンたちは現状に満足せず、なんとか上に行きたいと願う。だが、どう打開すればいいのか。それがわからずに周囲に意見を求める。その求める先が先輩筋にあたる、やはり売れないミュージシャンだったりするものだから、始末が悪い。失敗例に学ぶことがないわけではないが、藁にもすがりたい立場でそういう失敗例を見た時に、すがってしまっては結果は火を見るより明らかだ。失敗への道をまっしぐらということになる。
 
 小さなレーベルにトップヒットを獲得するようなアーチストと同じ規模の宣伝を期待しても意味が無い。それには応えられない。もしも現在の所属アーチストがブレイクして、そのアーチストによる売り上げによって潤沢な資金が出来たとしても、それを売れていないミュージシャンたちの宣伝に使うわけにはいかない。それは、ヒットを飛ばしたアーチストをさらに延ばすために使うべきだ。それは道義的に見てもそうあるべきだし、同時に効率の面を考えても、売れているものをさらに延ばすために使うことがもっとも効率的だ。レーベルに頼ることしか知らないミュージシャンにいい夢を見せるために使うあぶく銭はどんな状況下に置いてもあり得ないと思う。
 
 では、なにがレーベルとしての存在意義なのか。それはノウハウである。現状をどう打破していけばいいのかの、戦略である。それが一体なんなのかは、こんなところで公にするわけにはいかない。なぜならそれがレーベルの生命線であり、一線を越えてキラキラレコードに飛び込んできたミュージシャンにだけ伝えるべき宝なのだと思う。契約をする前のミュージシャンたちといろいろな交渉をする。その時には伝えないことなので、彼らはそういうノウハウがあるということの具体的内容を知ることなくサインをする。もちろんそういうものが無くても十二分にミュージシャンの利益につながる仕事をしている自負はある。だから、それ以上のことをする必要も無いかもしれないが、せっかくだから売れて欲しいし、そのためには惜しむ必要なども無い。隠すところ無くそのノウハウを伝えていきたいし、現に伝えている。
 
 だが、ノウハウといっても決して魔法の扉などではない。そのノウハウを使って、戦略に基づいて、彼ら自身が努力をしなければならない。その努力は何のためなのだ? それはまさに彼らの音楽が売れるための努力なのだ。努力と書くとものすごい苦労を伴うように思われるかもしれないが、じゃあその戦略が無ければ彼らはどうするのか。やるべきことがわからずに何をすることも出来ずただ立ちすくんだままでいるか、さもなくばもっと苦しくて見込みの無い、失敗バンド先輩の後を追うことだけだ。だからそれはもしかすると魔法の扉なのかもしれない。だがそれは地道に着実に動くことによって結果を求めるというだけの、正しい方程式でしかないのだ。
 
 それを、契約後のミュージシャンに伝えると、2通りの反応がある。1つは「目のウロコが落ちたようだ」というもの。もう1つは「うーん、とりあえずやってみますぅ」というもの。当然後者はそれが正しい方程式であるということにさえ気づいていない。だから一生懸命にやることもない。もったいないと思うが、それが彼の感性であり、理解力であるから、仕方ない。往々にしてそういうバンドが成功をつかめなかった時に「キラキラレコードはダメなレーベルだ」という言葉を発する。結果を得ていないという感触でしかないから、そういう感想に至ったとしても不思議は無い。だが、やっているミュージシャンはコツコツとやっているのだ。そのことになぜ気がつかないのだろうかと思うが、それは僕にはどうしようもないことなのだ。
 
 前者は「これはすごい、他の人には言いません」と言ってくれたり、「どこかで講演とかしたりしてるんですか」とか言ってくれる。別に褒めてもらいたい訳ではないが、そう言われて嬉しくないことも無い。それは自尊心をくすぐられて嬉しいというのではなく、アドバイスが役に立ちそうだという喜びなのだ。もちろん戦略を伝えたつもりで、それを相手も理解したつもりでも、細かな運用の過程では微妙な誤りを犯すことも多い。だから時に応じて軌道修正的なアドバイスを繰り返すことになったりもするのだが、それにしても、やはりそれなりの理解力がなければ、そういった戦略を実行していくことは難しいのだろうと思う。宝は、持ち腐れてしまうことも多いのだ。いかにして活かしていくのか。それが問われる。音楽だけで勝負するのではなく、人間力全体でぶつかって勝負をしていくのが、音楽での勝負の正体なのだろうと思う。
 
 ミュージシャンにも聡明さが問われる。それがあれば音楽の世界でなくとも成功に近づけるのだろうし、それがなければ目の前のチャンスをみすみす逃してしまうのだろう。