Monday, April 27, 2009

敵なのに〜金本知憲『覚悟のすすめ』



 先日昼飯を食いに出たら、いつものお店が休みだった。それでいつもは行かないところに行こうとしたのだが、あいにく何も本を持っていなかった。いつもの店だったら新聞を読むつもりだったのに、何も読むものなくて注文を待っているのはなんか苦痛だ。それで、書店に入って何か買おうとしたところ、目についたのがこれ、『覚悟のすすめ』。

 これがけっこう面白い。というか、いいことを書いている。金本は阪神タイガースの4番打者だ。その前は広島にいたし、現在フルイニング連続出場の記録を更新していて、鉄人とか言われたりしている。巨人ファンの僕からすると憎たらしい男のベスト20に入るといっても過言ではない、ミスター敵。それが金本知憲なのだ。

 だが、書いてあることは真っ当なことだ。金本自身が書いたのかどうなのかは不確かではあるけれども、だけど単なるゴーストライターの発想ではこんなことは書けないだろうという内容がどんどん出てくる。単に知識がどうこうではなく、発想なのだ。例えばこんなことを言う。「プロである以上、全試合出るのは当然だと思う。確かに身体をいたわって年に数試合休むことで結果的に選手寿命を長くさせるという考えはあるだろうが、私は全試合に出る。なぜならプロだからだ。会社に勤めるサラリーマンにも有給休暇を取らずに働いている人は沢山いるだろう。」「死球を受けるとどうしても恐怖感を持ってしまう。だから、死球を受けた直後はいつも以上に踏み込むようにしている。自分に当てた巨人の木佐貫にも「気にするな、次も思い切って投げてこい」と言った。木佐貫も当てようと思って当てたのではなく、ギリギリの勝負をして投げたのだ。自分も逃げ腰で良ければ逃げられたかもしれないが、本気の勝負をして踏み込んでいるから当たってしまう。それは仕方のないことだし、プロだから真剣に勝負をするのは当たり前のことなのだ。それでけがをしてしまったらそれまでのことである。」

 カッコいい。いや、カッコいいとか言うと金本は「何がカッコいいんだ。当たり前のことを当たり前にやっているだけなのに」と答えるだろう。だがそれをカッコいいと思ってしまうほど、普通の社会はヌルいし、ユルい。結果を出す人はそういう「厳しい」ことを「当たり前」だと思って日々活動しているんだろうなと思うと、僕自身も反省しなければという気持ちになる。いや、手を抜いているつもりなどさらさらないのだけれど、まだまだ結果が出ていないことを考えるにつけ、もっともっとと決意を新たにした。そう思わせてくれただけでも、この本は読んでよかったなと思うし、多くのバンドマンにも読ませたいなとか思ったりした。

 あとこの本の中で少々笑ってしまった点があった。それは、金本が先輩後輩のけじめをしっかりと付けているということだ。先輩に対しては必ず敬称を付ける。が、同期や後輩については必ず呼び捨てなのだ。彼は東北福祉大に進むわけだが、そのへんのくだりには佐々木主浩などのプロ選手の名前が一挙に出てくる。同じ文の中で、先輩には「さん」がつけられ、同級生や後輩は完全に呼び捨てだ。この辺が面白い。プロのライターが書いて推敲をお願いしたという形で書かれていただろうとは思うのだが、こういう点は厳しくチェックしたのだろうなとか思った。これを読んだ関係者がどう思うかという点において、彼にはこの点は特に気になるところだったのだろうと思うと、逆に多くの選手やファンが彼のことを「アニキ」と呼んでいるのを一体どう思っているのかなと興味がわいた。

 いずれにしても、なんか金本のことはちょっと好きになった。ストイックに精進しようとする人を僕は好きなのだろうな。巨人戦では完膚なきまでに三振してもらいたいところだが、他の対戦ではガンガン打ってくれよとか、これからは思うようになるだろうと思うし、今後なんかの弾みであったとしても、FAで巨人に来たりはしないでくれと思う。なぜなら、そんな選択はこの本で感じた僕なりの金本らしさが全否定になってしまうからだ。