Monday, May 11, 2009

交代

 いろいろな意味での交代表明だという気がした。小沢一郎の民主党代表辞任会見は意外なまでに爽やかな笑顔に満ちていた。

 思えば1年半前にも小沢一郎は代表辞任会見を行った。その時はもう本当に怒りと失望に満ちた表情と声の震えを見せていた。民主党はまだ政権担当能力が無いとまで言い切った。大連立の密約を当時の福田首相としたことに党内から反発を受け、ある意味放り投げるような辞意表明だったのだから、怒りも失望も無理はない。しかしそれに較べて今回の辞任会見はえらく爽やかでさばさばしていた。

 それもそうだろう。説明はとても一貫している。小沢一郎自身大切だと思っているのは政権交代であって、前回の細川政権の時に通した小選挙区制にも「比較的容易な政権交代の可能性」を願っていたし、今回もまた、政権交代によって日本の政治を変えようという思いが最優先課題としてあって、その思いの前には自らの立場などはどうでもいいことなのであった。フジテレビの記者が「3月以降厳しい声も多かったが、その一方で小沢首相を願っている有権者の声も多かったと感じているのだが、その人たちの期待に応えられなかったということについて申し訳ないという気持ちはあるのか」という質問をしたが、「大変ありがたいけれども、何よりも大事なのは政権交代を実現することであって、自分が何に成るということは問題ではない」とバッサリ。

 日テレの記者が「(民主党のイメージを傷つけたことを理由に)代表辞任だけでなく、民主党離党、もしくは議員辞職はしないのか」という質問をしたが、その時だけわずかに怒りの表情を見せながら、「なぜ離党をしなければいけないのか? 私は政治資金に関して一点のやましいところもありません」と返した。今回の会見では秘書逮捕の件については一言も触れられていなくて、今後のメディアの論調ではこの点についても蒸し返すように報道するだろう。しかし同時に新代表選挙が報道の中心になるはずだ。そしてそれまでの間に予算審議があるわけで、予算審議でも徹底的に抵抗する大義や根拠がこの辞任によって民主党にはもたらされたわけで、自民党が混乱する様子も併せて報道の中心になっていくと、比較的秘書逮捕問題が取り上げられる割合は薄まってくることが予想される。

 ネット上の声を見ても、「遅すぎるぜ」みたいな反小沢色が強い意見も「残念で仕方が無い」という小沢支持色の強い意見も両方あった。おそらく、そういう両方の意見を持っている人たちは、辞任してもしなくても投票行動に変化は無かったのだろう。僕自身も小沢支持色が強い側なのだが、辞任しようとしまいとどこに投票するのかは変わらなかった。今回小沢氏の言葉で辞任の理由としては「政権交代に影響が出る」ということが最大かつ唯一の理由だったわけで、だとしたら、支持もしないし嫌悪もしない人たちを考えた辞任だったのだろうと思われる。その人たちは今後の報道次第で投票が揺れ動くのだろう。どちらかというと政治や社会に関心が薄い人たちの動向によって、戦後政治史でも最重要人物の進退が決してしまうということに強い苛立ちは覚えるのだが、そんなことを言っていたら、きっと小沢一郎は「甘い!」というのだろう。そんなことは理想論であって、そんな理想論では物事は動かないんだと。

 これは小沢一郎の民主党代表交代表明であり、政権交代への意思表示であり、自民民主の攻守交代への狼煙であろう。この記者会見の背景にホラ貝と銅鑼の音が聞こえていたのは僕だけではないだろう。