Thursday, July 16, 2009

出来レースと梯子外し

 自民党のゴタゴタは出来レースだと思う。本気で党を割る気の人がいるのであればとうに内閣不審案に賛成票を投じているはずだ。しかしながら誰一人として賛成せずに粛々と否決された。小泉チルドレンの長崎議員は離党したが、これは山梨で刺客として立てられ、その結果選挙区では負けて復活当選した人であり、刺客の相手である堀内氏が復党して、自分の立場がなくなっているということに起因する行動であり、今の党内抗争もどきとはまったく違った話である。

 今の自民党内抗争というものは、小泉的構造改革派か非小泉的旧来体制派かというところで争っているように喧伝されているが、実はどうすれば政権から離れずに済むのかということでの動きに過ぎない。それぞれが今自説を主張しているように思われているが、結局は党を割ることも出来ないのはそうすることで下野が確実になるからであり、自説の究極は自民党維持に向けて確実に収束してしまう。何故そんなことが言えるかというと、今の問題は自民党の両院議員総会というものの開催に向けた署名の問題になっているわけで、それは全議員の1/3の署名があれば開催にこぎ着けられるということになっている。しかし、それが開催された時にどうやれば党則が変更出来るのか? 細かい党則を読んでいるわけではないが、まさか1/3の意見で党則が変更されて総裁選前倒しが起こるのか? 常識的に考えてもそれは有り得ないだろう。そして今1/3の開催に向けた署名が集まったとかいう段階であって、過半数には到底及ばない。しかもその1/3についても、「意見を聞きたい」とか「都議選敗北の総括を」という議員も含まれている。麻生降ろしを騒いでいる人たちだってそんなことは百も承知だろう。つまり、来週火曜日にも解散が予定されているこの期に及んで、総裁は麻生でという意外に道は無いということなど判っているのだ。

 だったらなんでこんなゴタゴタが起きているのか。それは一種の猫騙しだろう。このまま解散したら都議選のまますべてが進む。これが最悪のシナリオだった。しかしここでゴタゴタを利用して盛り上がる。この数日の麻生さんの言動はそれなりに腹が据わった印象がある。今日も「会議が開催されたら堂々と出て行って自分の考えを堂々と述べる。逃げも隠れもしない」と発言し、なんとなく毅然としたイメージが醸し出されている。「意外と麻生さんやるな」という気持ちに傾く有権者が出てきても不思議ではない。

 中川氏がいろいろと言っているが、彼ら「反麻生」と言われている人たちの役割はというと、アンチテーゼであり、敵役なのだ。もちろん政策的な距離というものはある。だが、所詮自民党なのである。復党のために謝罪しなかった平沼氏や啖呵を切って離党した渡辺氏とは根本的に違う。彼らは敵役として麻生さんとの対決を演出するための駒である。そして両院議員総会を開催して、麻生さんはそれなりのことを言うだろう。そして反対する人は罷免したり、公認取り消しなどをするだろう。選挙対策役員だった古賀さんが辞意を表明した今、それを麻生さんが兼務すればなんだってやれる。麻生さんに恐いものなんてないだろう。政治を引退しても大富豪であることは変わりない。切れれば何でも出来る人は恐い。その脅しがあるから、最終的に反対を貫いたりはしない。出来ないのだ。派閥の幹部もすでに反麻生の動きに対して圧力をかけ始めた。

 結局、これは出来レースである。中川氏の敗北。勝った麻生氏。それでメディアをジャックし、そのイメージでムードを盛り上げようとしているだけの茶番だ。挙党一致体制はいともあっさりとまとまるだろう。劇が終われば楽屋では手を取り合う。劇だとわかっていれば問題無いが、それが真実だと思って見ていた人からすれば、とても許されない茶番だといえるだろう。だが、そういう危険性を押しても、こういうひと盛り上がりを起こさないことには国民の目先を変えられないからやっているのである。もしかするとこれによって麻生さんの信頼も地に落ちる可能性だってある。だが、もしかすると「麻生さん意外といいかも」という方向に向くかもしれない。そもそも日本人というのは判官贔屓だったりするのだから。

 今回のドタバタのキーパーソンといわれている人たちがそれぞれ面白い。加藤元幹事長はあの加藤の乱の際に土壇場で折れた人。今も発言が途切れないが、初めて閣僚になって将来のホープといわれた頃の無口ぶりとはまったく違っている。それは立場も将来も無くなったからだ。そんな人が決然として何かをやるといっても、それは誰も信用しないだろう。石破大臣はかつて一度自民党を出て再び自民党に戻った人。その時に「やっぱり政権の1つの極というのは自民党なのだ」と宣言した過去がある。出戻りであるということもその発言もあり、個人的には一目置いている有能な政治家ではあるが、やはり再び離党などは全く有り得ない政治家である。その石破氏も所属する派閥の長の津島雄二も同じく離党組で、やはり再度の離党など有り得ない人で、今回は「津島派の議員の署名は全部撤回する」なんて発言も飛び出して、なんかよほど党が割れることを怖れているんだなあと感じる。与謝野大臣は一度選挙に落ちて浪人時代を経験している。今回の都議選での自民敗北はその時のことを強く思い出させたのだろう。なにせ自分の選挙区で、都議会の重鎮が公示直前に立候補を決めた若造に負けてしまったのだから。与謝野氏の今回の相手は捲土重来を期している海江田万里であり、いくら自分が財務大臣だとはいえ、容易に勝てる相手ではない。落選をした都議たちの怒りを収めないことには彼らの強力も得られないだろう。まあ若造にぼろ負けした都議の力を借りたところで大した力ではないかもしれないが、無いよりマシなのが彼らの力である。ここは麻生さんに一矢報いるポーズだけでも取らないわけにはいかないというのが本音なのではないだろうか。

 こういう人たちが巧みな世渡りを見せている中、後藤田氏などの動きがとても気になる。彼などはまだまだ青いと思う。かなり筋論を言ったりしているし、それが彼の本音なのだろう。しかし、ここで勢い良く屋根に上ってしまったら、はしごを外されてしまう可能性も無きにしもあらずだ。渡辺喜美もはしごを外されたクチで、同じように離党する以外に無いようなところに追いやられるかもしれない。しかしここに至っては民主党に鞍替えするわけにもいかないだろう。まあ後藤田氏くらいになれば地盤も強力だったりするし、落ちる心配はしなくてもいいのかもしれないが。

 すでに民主党の動きとしては対自民党の戦略を終了したと見え、兵庫8区に田中康夫氏を投入することが決まったらしい。東国原氏の起用に失敗したのとは対照的に、田中氏を公明党の大物冬柴氏に当てるという奇策を示した。あとは最大の空白区といわれる東京12区に誰を持ってくるのか。公明党も自民に協力している場合では無いというところに追い込まれてしまうのかもしれない。もちろんそれは窮鼠猫を噛む的な逆襲にあう可能性だってあるし、危険な賭けなのかもしれないが。