Monday, September 07, 2009

有刺鉄線ライブ

 有刺鉄線のライブを見るため、土曜日に池袋に行った。ワンマンライブだった。会場は池袋チョップ。手刀と書いてチョップと読む。それほど大きくはない会場だが、それでも近年はライブハウスが満杯という光景は珍しくなっていて、寂しい思いをする昨今ではあるが、今回のライブは満員だった。熱かった。暑かった。息苦しかった。

 息苦しいのは酸素の欠乏もあるが、それとは別に彼らがこのライブに賭ける想いが漂っていたからだろう。ライブというのは面白いもので、同じメンバーで同じ会場で同じ曲をやったとしてもライブによってまったく別の様相を呈する。それはライブのブッキングがされた時から違うわけで、当日の会場の雰囲気などにもそれは如実に現れる。もちろんそれは僕のようにもう何年もそういうことをしていて、バンドたちがいろいろな悩みを抱えながらも夢に向かって邁進している事情も知っているからではあるが、きっとそれは普通にお客さんとしてきてくれたファンやメンバーの友達にも大なり小なり伝わっていただろう。緊張感と、その緊張を通過することで生まれる充実感。そういうものがライブを良くしていくのだ。

 ワンマンになると自分でチケットを売らなければどうしようもない。しかもワンマンだから売れなければライブそのものも寂しいものになるし、自分たちの経済事情も寂しいものになってしまう。バンドを始めるとメンバー内にそういうリスクを避けたがる人がどうしても出てくる。だから、多くのバンドはその安易な弱気になびいていって、チケットノルマがあるライブには出ないという方向に行ってしまう。確かに経済状況的にはリスクがないだろう。バイトで稼いだお金を放出しないですむだろう。しかしそれでは結局向上しないのだ。向上しないということは未来がないということであり、それこそ人生における最大の危機なのではないだろうか。だから僕は常にバンドたちにはリスクを恐れるなと言う。リスクはハードルであり、バネなのだ。そのハードルを超えることで自分たちは高いところに行くことが出来る。一時的に縮むエネルギーでジャンプするのである。

 今回のライブはとても盛り上がった。その盛り上がりの状況そのものがお客さんの喜びにつながる。それは体験したものしか判らないことだろう。だから多くのミュージシャンが懐疑的にリスクを恐れる。だが意外にもリスクを通過してきたミュージシャンたちはさらに高いハードルへと挑もうとするのだ。それは既に基礎力が高まったということであるし、そういうとき、僕はバンドをそこに追い込んで良かったなあと思うし、彼らの今後にさらに期待したいなと思うのである。もちろん、リスクに挑んですべてが成功するわけではない。リスクに挑んでいるんだということに酔っているだけのケースもある。その時の気持ちは本当だったりするから、周囲にいる僕らもそのことに気付かず、ふたを開けてみたら何にも成長していないということが露呈したりする。唖然とするし、それまで賭けてきた僕らの気持ちや行動や投資が無駄になったと愕然とする瞬間だ。もう何度もそんなことに遭遇してきた。今も同時並行していくつものバンドと仕事をしているわけだが、成長していくバンド、そうでないバンド、やはりいる。仕事って簡単ではないなと、知っているつもりでもあらためて思い知らされたりする。

 だからこそ、有刺鉄線の着実な進化が嬉しいし、昨年の解散の危機を思うと今が如何に幸せな状況なんだろうとあらためて感じるのである。


有刺鉄線/『分岐点』:The Barbed Wire "Turning Point" Live at Ikebukuro (2009.9.5)