Friday, September 25, 2009

西松遙社長のウソ



 今回の鳩山政権の布陣で最も感心しているのが前原国土交通大臣だ。そしてこの人が辻元清美を副大臣にしたというのも興味深いと思う。なぜなら、筋金入りの融通が利かない人たちだからだ。国土交通省というのは利権の巣窟である。扱う予算も莫大だ。既に進行している事業を止めるというのは、言うのは簡単だが行うのはとても難しい。既存の権益が幾重にも絡んでいるからだ。普通は自分の立場が可愛いものだ。だから民主党の議員でありながら既に地域の陳情に応じてすべてのダムが中止ではないなどと言っているやつもいる中、国土交通大臣は大変だなあと思う。これをマニフェスト通りにやっていこうというなら、かなり原理主義的な人でなければ不可能だ。もちろんそれで非難も起きるし、後日ものすごいバッシングや抵抗も起きるだろう。それでも曲がらないという強い意志が必要になるのだ。その是非はともかく、竹中平蔵のように現在、市場原理主義の悪の権化のように言われながらも平気で反論するような、ある種の厚顔ぶりが要求される。これは、小沢一郎の権勢にも折れることなく主義を貫こうとしてきた前原氏こそ適任の役割だと、僕は膝を打って納得した。

 この前原大臣が昨日会ったのが西松遙、JALの社長だ。この人は瀕死状態にある日本航空を立て直そうと必死になるべき立場の人だ。数ヶ月前にCNNだかなんだかで取り上げられた。なんでも、日航の危機に範を示そうと電車通勤をしているということだった。美談である。もちろん社長が電車通勤をしたところで全体の経費削減の規模からすると屁にもならない。しかしながら、そういう姿勢を示すことで、企業年金を減らさなければという交渉にも状況打開の芽が生まれる。全員が我慢をするのだよということをお願いするなら、まずトップが率先するのが当然だ。

 そのニュースは世界を駆け巡り、公聴会に自家用ジェットで乗り付けて批判を受けたアメリカ自動車業界のビッグ3のトップと比較された。美談となった。前原大臣もそのことを知っていたのか、会談の冒頭で挨拶をするかのように問いかけた。「今も公共交通機関で出勤されているんですか」と。それに対して西松社長は「いやあ、最近はインフルエンザの流行もあり、周りも心配するものですから、今は車で」と答えた。相当ばつが悪そうだった。

 そのこと自体もそうだが、僕はこの人はトップとして相応しくないと感じた。そもそも電車通勤もパフォーマンスに過ぎなかったのだと思った。そういえば少し早めに会談の部屋に入った西松社長は椅子に座ることなく立ったまま前原大臣を待っていた。これもパフォーマンスを気にする本能がそうさせたんじゃないかという気がする。注目が集まるところではそういうことが出来るのだ。だが注目が薄れるとそういうことをやるわけではない。そう思われても仕方ないのではないだろうか。

 それと、もっとおかしいと思ったのは、日航とはどんな会社なのかということへの認識が足りなさすぎるのではないかということである。まず、航空会社の経営が怪しくなったきっかけのひとつはサーズの流行である。サーズ流行を恐れた人々が海外渡航を自粛した。一種の風評被害である。先日も新型インフルエンザが問題となって、北米からの帰国便が物々しく消毒され検疫され、疑いある人を隔離したのは記憶に新しい。人々は海外を自粛した。そういうことが自社の経営に影響しているというのに、今ここで「インフルエンザが流行っているものですから」と言う。しかも彼が公共交通機関での移動がインフルエンザ感染の原因になりうると断言しているも同然である。しかし、その日本航空こそ、巨大な公共交通機関である。電車などに比べてはるかに気密性も高く、空気も乾燥している。そして同じ人間が長時間同じ空間に閉鎖されている。感染のリスクは隙き間だらけの電車などよりもはるかに高い。西松社長はそういう空間に多くの人に乗ってもらいたい立場の人である。それが、インフルエンザを恐れて電車を敬遠しているという。なんだそれと思わざるを得ない。

 しかも彼はそれを主張したのは周囲だと言う。彼が本当に自社の立場を理解しているならば、周囲を説き伏せても自分は電車で行くのだということを貫くだろう。もちろん電車よりもハイヤーの方が楽だ。その楽を選んでいるだけのことである。周囲の甘言が本当に有ったかどうかは不明だが、有ったとしても、それになびいたのは西松社長自身だ。それを周囲のせいにするようでは、リーダーとして失格だし、今後のリストラ案や組合やOBたちとの交渉で、本当に困難な交渉に当たれるとはとても思えない。

 前原大臣やマスコミは、西松社長の言葉の裏を取るべきである。彼が電車通勤を止め、ハイヤーでの出勤に切り替えたのは一体いつなのか。それがインフルエンザ問題とリンクするかどうか。僕はインフルエンザは単なる口実であって、本当の理由ではないと直感する。そのことを是非とも取材や調査によって明らかにしなければ、安易に公的資金を与えるべきではないと強く感じる。単に公的資金を否定しているのではない。日航の置かれた立場や、これまで国の空港開発に付き合わされてきた事情なども考えると、一方的に日航のことばかり非難するのはどうかとも思うし、将来的に返済されるのならば無駄ではないし、この規模の資金援助は国でなければ不可能だとも思う。鳩山さんも決して否定的ではないというが、やるべき時は予算を使うということも絶対に必要だ。でも、それがもしもいい加減なパフォーマンスの人に騙されて出すようなことがあってはならないし、それは結局日航を救い、国民の利益にはならないのだと思うのである。