Friday, November 06, 2009

THIS IS IT



 マイケル、すごかった。29日に観に行った。この人にだけ重力が働いていないように感じた。世界中のダンサーがオーディションに集まり、技術もセンスもあるのは当たり前で華がなければ採用されないという熾烈な競争に勝ち抜いた若手たちを従えてマイケルが踊るのだが、呼吸一つ乱していないマイケルの後ろで、肩で激しく呼吸するおにいちゃんの姿がとても印象的だった。マイケルは違う次元にいると思った。一説にはもうあの時点でマイケルは死んでいて、リハをやっているのは別人だと言っている人もいるようだが、もしもそうだとしたら、その別人は独立した方がいいし、自分名義で世に出たらたちまちスターになれるだろう。だがそんなことがないということが、やはりマイケル本人だったということを証明しているのだろう。

 マイケルのすごいのは、ダンスはもちろんのこと、サウンドからショー全体までの細部を全部把握して、イメージできていて、それをスタッフや演者たちに伝えようとしていたことだ。僕はチャックベリーのドキュメント「ヘイルヘイルロックンロール」を思い出した。その映画の中ではチャックベリーのステージをサポートするために駆けつけたキースリチャーズをつかまえて「お前今こんな風に弾いただろう、ダメダメだ、こうやるんだ」と叱る。キースはいうまでもないがストーンズのギタリストだ。それをダメだと一言で片付ける。まあ伝説のチャックベリーだから格上ではあるのだが、それでも初めて見た時には衝撃を受けた。だがそれもステージを自分の理想に近づけるためには当然のことだったのかもしれない。マイケルもプレイヤーたちに演奏の指示を細かく加える。それでプレイヤーたちは安心し、成長する。マイケルのプレイヤーたちはさほど有名ということではなかっただろうが、それはチャックベリーに取ってのキースリチャーズとあまり変わらないことだったのだろうとか、思った。

 スターのショウは規模も大きく、チームで初めて成立するビックプロジェクトだ。監督であっても細部は担当のスタッフに任せてというのが当然で、スター自身はそのプロジェクトに神輿として担がれるということになる。それしかできないのだ、普通は。でもマイケルは細部を自分で作ろうとしている。だからこれはマイケルのショウになるのであり、一つの価値として美しくなりうるのである。僕の仕事でもあるインディーズの世界では、ライブハウスで5曲程度を演奏しているライブが、なんとなく出たとこ勝負でおこなわれているケースが多い。もちろんビジネス規模も違うし、別の仕事をしたりしながらライブの日を休みにするのがやっとという状況だったりするので一概に比較するのはどうかと思うが、だがそれでも、自分たちで決められる部分が相当多いにも関わらずそこに気持ちを傾けることが少ないステージを見たりすると歯がゆい思いをする。そういう意味でも、売れないミュージシャンには特に見てもらいたい映画だなと思った。モノを作るということのエッセンスを感じることの出来る貴重な資料だ。