Sunday, August 22, 2010

49歳、新人、美国義治、ついにCDデビュー

昨日8月21日に、キラキラレコードからは4タイトルのCDが発売された。どれも自信作なのだが、今日はその中で、キラキラレコードとしても異色の新人アーチストについて紹介してみたい。

 美国義治。49歳。大阪でカメラマンをやっている。その彼がキラキラレコードにデモCDを送ってきたのは約半年前のことだった。ニューミュージックよりはどちらかというと演歌に近いようなフォークソングを奏でていた。うちは普段わりとロックやポップスといった若者の音楽中心にリリースをしているが、そこだけがキラキラレコードの音楽ではない。音楽人口から考えると当然そこがメインになるけれども、音楽はなにも若者だけのものではないのだ。少なくとも僕はそう思う。僕がそう思うということは、それがキラキラレコードの考え方にもなるのである。

 それで、美国義治。彼が送ってきたデモは、とてもシンプルな歌だった。なんか音楽の原点というか、とても懐かしい感情が湧いてきた。それで早速メールでコンタクトを取ったのだが、特に表立ったライブ活動なんかはやったことがないという。40代でデモを送ってくれるミュージシャンは実はそんなに珍しくない。そのほとんどは若い頃からバンドをやってきてて、やめられずにそのまま歳を重ねたか、そうでなければ学生の頃にやってて、一旦社会人になって仕事に打ち込んだけれど、ある程度仕事も軌道に乗ったのでそろそろ音楽を再開するかといった人たちだ。つまり少なからずライブ経験を持っているような人たちがほとんどであって、40代になっていきなり音楽を始めるなんてことは僕の知る限りあまり例のないことなのだ。

 だが、美国さんは40代半ばで音楽を始め、オリジナル曲を作り、デモを応募してきた。正直すごいと思う。そのチャレンジ精神だけで尊敬に値する。たとえ音楽がしょぼくても、人生の開拓という意味では見習うべき姿勢だなあと思うのだ。だが、音楽そのものも悪くない。というか、結構良い。大人が聴く音楽というものはまだまだ供給が足りないと常日頃思っている。僕自身45歳で、後1ヶ月もしないうちに46歳になる。その僕が、20歳そこそこのロックバンドが歌う「人生論」に素直にうなずけるか?いや、うなずけるわけがない。人生経験も浅く、たいした苦労もしていないやつらの言葉に大人はなかなか涙など出来ないのだ。同じように思っている人は決して少なくないだろう。だからCDも売れないのだ。出版の世界は若者の活字離れに対応するべく大人向けの書籍をきちんと開発している。40歳主婦向けのファッション雑誌など昔はなかったが、いまやアラフォーモデルが普通に活躍している。そうなのだ。音楽だって大人に向けたものを開発して供給しなければ、そのマーケットをそっくり失うことになる。そういう意味でも、40代のシンガーやバンドのCDをリリースするということはとても大切なことなのである。そういう人たちが普通にデビューしていくことによって、もっと大人も音楽に親しみを持つだろうし、こんどは「自分もやろう」というエネルギーの源になる。それはまるで大リーグ挑戦が論外だった94年に野茂が日本球界を飛び出して後進の道を拓いたように、一つの成功例がその他大勢の指針になるのだ。美国さんがそんな成功を収められるかは判らない。だが、チャレンジしなければ可能性もゼロなのであって、そういう意味で、僕は彼のチャレンジを応援したいし、今後もいろいろなアイディアを提供しながら、彼の活動を後押ししていきたいと思うのである。


美国義治/『ありがとう』

 美国さんはなにもアラフォーとしてキラキラレコードの最初の挑戦ではない。歳を重ねながら音楽にトライする人たちは意外と多く、僕は彼らの音楽を世に送り出そうという活動をもう8年くらい続けている。僕より1年上の松尾一志というフォークロックシンガーのCDはもう11年も前のリリースだった。当時はまだ彼も30代だったが、今となってはもう46~47歳だ。3年ほど前からリリース活動自体は止まっているが、今でもライブなどは続けていて、心の底から応援しているシンガーの1人だ。


松尾一志『人生は四十から』

 また、2年前にリリースしたMOGSTARRというバンドがいて、洋楽テイストの実にいいサウンドを聴かせてくれる。ギターボーカルのmoglahは海外生活中にビートルズの楽曲に独自のアレンジを施してインディーズデビューし、スマッシュヒットを飛ばした経歴を持つバリバリのミュージシャンである(このアルバムは権利関係などもあって現在は廃盤)。バンドの中心はmoglahを含めた30代の夫婦なのだが、ドラムが夫婦のお母さんで、家族バンドという風変わりな編成になっている。お母さんはもう50代後半だ。それでもライブハウスに出場し、ハードロックバンドが来日するとスタジアムに駆けつけるという生活を送っている。僕もこんな人生を重ねたいなとリスペクトしているミュージシャンの1人である。


MOGSTARR『VIDEO 001』

 まあいずれもまだセールス的にはそれほど成果を出せてはいないけれども、だからといって否定されなければならない理由なんかない。大人は大人のペースで、じっくりと熟成を重ねながら続けていけばいいのだ。旬を争う若者の音楽とは違う特権でもあるだろう。こういう活動で音楽の裾野を広げていくことはとても意味があると思うし、同時に、そこに触れることが、リスナーの人生を確実に豊かにしていくと信じている。

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