Friday, October 21, 2011

THE SNEAKERS『WAOOOOOOOOOO』

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 本日、THE SNEAKERSの新譜がリリースされる。されるというか、僕がリリースするのだけれども。

 THE SNEAKERSといっても知らない人が多いだろう。今年結成15周年のロカビリーバンドだ。リーダーのコータローを中心に、伝統的なロカビリーの王道的サウンドをかましてくれるイカしたバンドなのだ。ステージではファンキーでフレンドリーなMCを展開して、観客を爆笑の渦に引きずり込む。彼らのライブを見てハッピーにならない人はまずいないだろう。



 そんなTHE SNEAKERSとの縁は深い。1998年にキラキラレコードが最初に定期的なライブイベントを開催しはじめた頃に彼らはデモを送ってきてくれた。そのテープは今でもある。「Dance Party vo.1」というタイトルラベルに、当時の若々しい彼ら3人の写真が添えられている。そのリーゼント姿からも判るように、当時の彼らはとてもやんちゃだった。当時の言葉で言えば「不良」だったのかもしれない。しかしそれは見かけだけのことで、根はとてもストレートで、自分が納得出来ないものには真っ正面からぶつかっていくけれども、納得出来るものには笑顔で答える。そんな純粋なハートを持ったイカしたヤツらだったのだ。

 あるとき、彼らのライブの客席で、突然シャツを脱いで背中の入れ墨をこれ見よがしに見せつけようとした若者がいた。当時のやんちゃ仲間だったのだろう。そのライブの後で僕はメンバーにこう言った。「誰と付き合うのも自由だし、それをとやかく言うつもりは無いよ。でも、ああいうことを客席でされると、他のお客さんは怖がるし、引く。次もライブに来ようとは思わなくなるだろう。結果として損するのはバンドだ。ライブに来てシャツを脱いだり暴れたりする行動がバンドのマイナスになるんだということを、友達なんだったら理解するべきだし、彼が理解してくれないのであれば、それは応援してくれる友達ではないよ」と。彼らがどう思ったのかは判らない。だが、その後のライブで入れ墨の男がシャツを脱いで暴れるということは一切なくなった。

 そんな彼らも徐々に人気が出てきて、主催の企画にはどんどん客が入るようになった。下北沢屋根裏という、50人も入ったらパンパンだよねってライブハウスでは250人という動員記録を当時打ち立てた。当時企画に出演してくれていた氣志團は、その後のTHE SNEAKERSのアルバムに参加してくれたし、今回リリースのミニアルバムでもコメントを寄せてくれている。

 その後彼らは別のレーベルに移っていった。が、昨年Twitterで僕とコータローくんがフォローしあうようになり、その縁もあって今回久しぶりにキラキラレコードからのCDリリースとなったのだ。面白いこともあるなあと思う。

 コータローくんの人柄を示すエピソードをひとつ紹介したい。ちょうど1ヶ月前の9月21日にすごい台風が日本を直撃した。彼は今トラックの運転手をしているのだが、台風で強風と豪雨が襲ってきたとしても仕事が休みになるわけじゃない。その日はホッピーの空きビンを運ぶ仕事だったそうだが、ということは瓶が入ったケースをトラックに積み込むという作業をしなければならない。ただでさえ力仕事で辛いはずだが、その日の彼のつぶやきはこうだ。「さて!雨ざらしの空瓶引き取り開始しますか!(笑)」笑いって、、、。誰もが台風で外になんて出たくない時に笑って空瓶を積んでいる。コータローくんが笑っている姿が目に浮かぶようで、半分笑って半分泣けてきた。爽やかなナイスガイだなあと心から思う。

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 そして、15周年だ。ひとつのことをずっと続けるというのは結構大変なことだ。レーベルを21年やってきている僕にはそのことがよくわかる。しかもバンドはメンバーとの人間関係をどう維持するのかというのがとても大変で、メンバー同士喧嘩して解散というのはよくある話だ。一度解散して、また気のあうメンバーと新しいバンドを結成した方がどれだけ楽なことか。しかし、ファンにとってはそうではない。一度自分が惚れたバンドが解散するというのは辛いことだ。なぜなら、自分が価値を見いだした存在が、その存在自身によって壊れる、つまり価値を否定されるということに他ならないからだ。

 僕はよくバンドに言う。自分たちのCDやライブチケットを1枚でも有料で売ったら、その瞬間からファンに対する責任が発生するぞと。買ってくれた人は、単に物を1個買ったのではない。そのバンドに成功して欲しいと、将来に賭けているのだ。CDやチケットは、ある意味馬券のようなものである。将来それが紙くずに変わるのか万馬券に変わるのか。お金の話ではない。自分が音楽評価にどういう目や耳を持っているのかということの証明の話だ。多くの人はそんな自信がないから、既に売れているものを買ったり聴いたりするだけ。無名のバンドにお金を投じるのは、自分は他人の評価に左右されずに「良いモノは良い」と自ら判断しようという、勇気ある人だけが行なうチャレンジだ。その期待を受けたアーチストは、その期待に応えるためにも、その評価が「正しかった」という結果をだす義務がある。ただ単に1枚のプラスチック片や、ミシン目のある紙切れを渡せば良いということではないのである。

 そのためになにより必要なのは、止めないということだろう。どんなに才能があっても止めてしまえばそこで終わり。止めるということは、自分自身で「オレには価値が無かった、俺たちの結び付きには価値が無かった」と宣言するようなものである。もちろん成功するのは並大抵ではない。だが、止めずに続けることは自分たちが踏みとどまりさえすれば出来ることである。実際にはその出来ることがほとんどのケースで出来ていないのだが。

 そう考えると、彼らTHE SNEAKERSが15周年を迎えたということはそれだけで素晴らしいことだと評価していい。今回のミニアルバムの6曲目に『心のアルバム』という曲がある。「約束通り 俺はここにいる 15年前 僕らは出会った」という歌詞がある。そうだ、彼らは約束をしたのだ。自分たちは音楽をやるんだと。それは具体的な誰かとの約束ではなく、THE SNEAKERSのことに少しでも関心を持ってくれたすべての人たちとの約束だったのだ。その約束を、どんな苦労を超えてでも果たす。それは自らをアーチストと名乗る者たちにとって、最低限の、そして最大の約束なのだろうと思う。その約束をTHE SNEAKERSは守って、今日15周年の記念CDをリリースする。彼らのファンは幸せだ。そういう記念すべきCDをリリースすることが出来るというのは、それだけでレーベル冥利に尽きる。

 もちろん、リリースすればいいというものではない。ぜひ皆さんに買ってもらいたい。そして買ってもらうことで彼らの活動を後押ししていければいいし、その後押しが、20周年、30周年へと続くエネルギーになればいいと心から思うのだ。

 買う価値が、THE SNEAKERSにはあるぞ。